2010年8月17日火曜日

東川町フォトフェスタ2010

今年で26回目の開催ということになる東川町フォト・フェスタに行ってきました。

東川町は旭川空港からほど近いところに位置していますが、宿泊施設が少ないので関係者はほとんど旭川市内のホテルに泊まると言うことになるようです。
7月31日は旭川市内から関係者用の送迎バスが朝の8時45分に出発するというので便乗させていただきました。さっそく冬青社の高橋社長と顔を合わせて東川に到着するまであれこれとおしゃべり。

東川到着後は以前に冬青社でお会いした高田彰さんのサテライト展示の進展具合を見に行きました。高田さんは4歳の娘さんを預けて単身東川に入り、世界を旅する写真展の展示を昨夜から徹夜で行っている、という事でした。

高田さんのブログhttp://dkpsjapan.blogspot.com/

Dr.Karanka's Print Stravaganza

その後は、ポートフォリオレビューや東川賞作家の展示を見たり、屋台を覗いたりしながらぶらぶらしました。

東川町フォトフェスタのメインイベントはなんといっても東川賞でしょう。部門も海外作家賞、国内作家賞、新人作家賞、特別作家賞と4部門あり、今年からは北海道にちなんだ飛騨野和右衛門賞が新設されています。
歴代受賞者にルシアン・クレルクやジョエル・マイエロウィッツ、田原桂一、杉本博司、やなぎみわ、澤田知子などの名前があるように、時節時節に重要な写真家が選ばれてきたことがわかります。
受賞作家の展示用にはギャラリーが一軒ちゃんと建築されていて、このへんが26年の歴史をしっかり経てきたあかしなのでしょう。

今年の新人賞にはヒューストンでお会いしたオサム・ジェームス・中川さんが選出されていました。海外作家賞は台湾のChin-pao Chenさんが選出されました。PGIの高橋朗さんが昨年台湾のフォトフェスティバルに出かけられてリサーチを行ってきた成果のように思われました。

その他に全国の高校の写真部で対決する写真甲子園というイベントがあって、これも面白いな、と思える企画です。どうしても指導する先生の個性にひっぱられがちなんじゃないかな、とおもえるふしがありますが、レベルはとても高くて甲子園対決という名称にふさわしいものと感じました。

一番気になったのがポートフォリオレビュー。冬青社の高橋さんはポートフォリオレビューにのぞんで、ツアイトフォトサロンの石原さんや、日本カメラの前田さんに連絡して、面白い写真家がいたら紹介するのでよろしく、という一札をおとりになってからの参加と聞いていました。ポートフォリオレビューは写真家と写真のマーケットの出会いの場でなくてはならない、という信念を持たれているからです。僕もまったく同感です。

なにせ、ヨコハマフォトフェスティバルのオープンポートフォリオレビューでさえ、 オサム・ジェームス・中川氏から「なんでレビュアーに写真家がいるの?」とつっこまれたほどなのです。中川氏はポートフォリオレビューの総本山ヒュースト ン在住の方なのですから、当然のつっこみです。

レビューに参加する写真家は参加費2000円で4名のレビュアーとのセッションができることになっているそうです。ただ、どうしても地元北海道在住の写真家が多いような気がしましたし、写真のマーケットとの出会いというよりも自作の講評をしてもらいたい、という方もいるのかな、という気がしました。

参加した知り合いの写真家から聞いたレビューで言われた話を少し聞いてみたのですが、ほんとうにマーケットで通用する写真家を育てたいのならそのようなレベルの話でいいのだろうか、という気はしました。
日本で、ポートフォリオレビューという用語が写真家と写真のマーケットの出会いという意味ではなく、高名な写真家や批評家から講評してもらう場、という意味になっていかないように、東川でもがんばってもらいたいな、と思いました。


毎年いらっしゃるというニコンの村田さんが「東川に来ないと夏が終わらないんですよ。」とにこにこしながらおっしゃるとおりに、コンパクトな会場、どんとこい祭りなどとも一緒になった町をあげてのイベントであること、町民の皆さんやボランティアの学生さんなどの和気あいあいとした雰囲気、写真関係者も夏休み気分で和んで参加していること、参加している人たちに大判振る舞いされる授賞式の地元料理や、夜のバーベキューなど、たしかに北海道ならではの夏の風物と一体化したなごやかな雰囲気は楽しく、すばらしいといえると思いました。

東川に来る直前に少しお話した山岸享子さんは、東川も今年あたりからターニングポイントを迎えていくのではないか、これからが重要、とおっしゃっていました。

世界は大きなパラダイムシフトの時期に突入しています。物の時代から心の時代へと流れは変わっていきます。写真の世界もこれから大きく変わるでしょう。

東川も国際フォトフェスタと銘打っている以上、どのように激動期を迎えている世界の写真マーケットのなかで存在感をアピールするのか、明確に方向付けがなされていくといいな、と感じます。

東川町フォトフェスタに参加させていただくにあたり、PGIの高橋朗さんと東川町写真の町課写真の町推進室長の三島光博さんに大変お世話になりました。心よりお礼申し上げます。

東川町ウェブサイト

PGI の高橋朗さんと台湾の写真家Chin-pao Chen氏

オサム・ジェームス・中川氏の「バンタ」、「ガマ」シリーズの展示
北島敬三氏の「The Joy of Portraits」東京都写真美術館の展示では展示されなかった作品なので間近に見ることができて良かった。
高田彰さんのサテライト展示の様子。まだ展示途中だった。

沖本尚志氏のレビュー
平間至氏のレビュー
山崎博氏のレビュー
高橋国博氏のレビュー
倉石信乃氏のレビュー
オサム・ジェームス・中川氏と平野正樹氏。お二人を引き合わせたのはなんとウェンディ・ワトリスさんなのだそうだ。
町長自ら撃ったという鹿の大盤振る舞い。鹿肉ソーセージも美味。この辺の気合いの入り方が日本の地方の醍醐味なのです。
授賞式もまずは地元の太鼓チームから。

すぐ隣の広場では音楽イベントも開催されていた。気持ちよさそうです。

2010年8月9日月曜日

奈良原一高写真展”手のなかの空”

島根県立美術館で7月30日から9月13日まで奈良原一高写真展が開かれている。

今も、また将来も写真家でありつづけたい、写真を心から愛する人でありたい、と願う人であるならぜひ足を運ばれることをお勧めする。

この展覧会では奈良原氏のデビューから2004年までの作品を年代順に追っていくことができる。

「僕にとってカメラはポータブル・タイムマシンだった。このマシンを携えて旅をしてみると、世界は奇跡に充ちている。」

と奈良原一高写真集・時空の鏡の扉にある氏の言葉のように、氏がどのようにカメラとともに世界を体感し、その刹那、刹那を感じ、生きてきたのかを追体験することができる。

美術館でオリジナルプリントを見て、ていねいに作られたカタログで奈良原氏の言葉を追っていくと、初めて恋心を知った初心な乙女のようにどきどきとしてくる。奈良原氏の写真を通じて、写真を撮るという行為が限りなく新鮮なものに思えてくる。奈良原氏は写真というもののもつ根源的な魅力と魔力にとりつかれた人なのだ。

「宇宙は自分の存在を認識してもらいたい為に、知的生命体を創った、とも言われている。もしそうだとしたら、写真家こそ宇宙が最も期待する種族のひとつではなかろうか。」

そう、まさしく奈良原氏こそはこの宇宙で最も写真家であるべき人なのだ。

みずみずしい感性とアイディア、常に世界と真摯に、新鮮に対峙する姿勢、限りない好奇心、写真のスタイルにこだわらずにそのときに感じたものを最良の方法で仕上げていく手法、僕たちが奈良原氏に学ぶべき事は多すぎる。

ちょっと高い声音が独特でいつもにこにことやさしい。常に好奇心旺盛で僕たちにもこういう条件だったらどうやって撮影するのがいいのかな、などと気軽に話しかけてこられる。フレーミングに細心の注意を払われる撮影スタイルも圧倒的にさわやかだ。

松江にある島根県立美術館は宍道湖畔にあるとても美しい美術館だ。渋谷マークシティ5階から出雲行きの深夜バスが夜8時にでる。このバスに乗ると朝の6時過ぎに松江駅に着く。美しいシルエットを持つ松江城を見てから、ゆっくりと1日美術館で過ごして、また深夜バスで戻れば、往復24000円ほど。インターネットで予約すると片道8000円台になるそうだ。残念ながらインターネット予約はウインドウズとインターネットエクスプローラーに限られているらしいので僕は使えなかった。

この夏はぜひ奈良原ワールドに浸って欲しい。

島根県立美術館

宍道湖を望むことができる美しいエントランス。

開会式の後、蔦谷氏のギャラリーツアー。

アメリカ「消滅した時間」のオリジナルプリント。美しい。
山岸享子氏。
奥様の恵子さん。気軽に写真撮影に応じられていた。
2階では森山大道写真展他、山陰の写真家の写真展なども同時に開催。
美術館のレストランでランチ。美味でした。