2010年11月23日火曜日

細江英公 in LUCCAdigitalPHOTOfest 2009

ちょうど1年前のこと、イタリアの小さな街ルッカで行われたLUCCAdigitalPHOTOfestに招待された細江英公氏に同行する機会をいただいて、まだ知名度はないがとても意欲的ですばらしいフォトフェスティバルに接することができた。
なんだかこのブログも1年遅れで掲載する、というとんでもないブログになってきてしまったが、まあ我慢してください。

まず昨年のアサヒカメラ誌の情報欄に掲載したコラムを再度掲載しておきます。僕が文章量を間違えたので、最初に書いた長い方のコラムを掲載します。

「その夜。

エントランスの両側に並べられた蝋燭の光に導かれて、ヴィラ・ボッティーニの中に招きいれられると、そこでは時間と空間が交錯する不思議な宴がくりひろげられていた。

名だたる細江英公の名作『おとこと女』『薔薇刑』『鎌鼬』『胡蝶の夢』『ガウディの宇宙』『きもの』『春本・浮世絵うつし』は染め摺り師・木田俊一の手で和紙へとうつしかえられ、アートディレクター・馬淵晃の意匠をまとった細江英公寫眞絵巻として、赤、青、緑、黒に彩られた壁に10メートルもの長さのままに展示されている。
ヴィラ・ボッティーニの壁と天井には16世紀当時のままのフレスコ画が縦横無尽に色鮮やかに描かれている。
土方巽や大野一雄、三島由紀夫の硬質な肉体は、ルネッサンス期のふくよかな裸体と溶けあい、絵巻の意匠に使われた古着物の柄が黄金色の天井の装飾とからみあっている。
集まったイタリアの名士たちはふるまわれたシャンパンに酔うまでもなく、この贅沢なエロスとタナトスの饗宴の香気にむせかえる。
現代のデジタルテクノロジーがマエストロ達の魂と結びつく時、リニアな時間と空間は揺らぎだし、なまなましく、なまめかしくもイメージ本来の力が主張を再び始める。

5回目を迎えたルッカデジタルフォトフェストのメインゲストに招かれた細江英公はこの16世紀のヴィラでの展示の話を受けたときに、現代のデジタルプリント技術と16世紀の建物のコラボレーションに胸をおどらせたという。

ルッカデジタルフォトフェストはたった3人の手によって運営されている規模は小さいが野心的なフォトフェスティバルだ。わざわざデジタルという冠をつけたのも他のフォトフェスティバルとは一線を画す新しいファインアートの場所を写真家に提供したいという思いからなのだそうだ。
21世紀にはいり、写真もコンテンポラリーアートの一角に確実に座を占めてきて写真家達の生み出す作品も大きく変わってきているのが世界的な傾向だが、イタリアではどちらかというと写真と言えばフォトルポルタージュが主流なのだそうだ。このフェスティバルでも最初の4年は観客にわかりやすいエリオット・アーウィットなどの作品を取り上げてきていたのだが、細江英公がメインゲストの今年から本来の趣旨に添うフォトフェスティバルとしての飛躍を期している。

トスカーナ地方はイタリアの中でももっとも美しい地方として全世界の人々からも愛されている場所だ。ルッカはフィレンツェとピサの間にあり、城塞都市の面影を今も色濃く残す美しい街である。
今年は周囲を城壁で取り囲まれた旧市街の7つの場所に展示スペースがもうけられた。リチャード・アベドンのアイリスプリントによるカラー作品『故コンフォート夫妻の思い出』、マン・レイの『15のジュリエットの顔』、アーネスト・バザン、クロード・ノーリ、アレックス・マジョリ、ジャコモ・コスタなどの作品が展示された。ワールド・プレス・フォト09の展示場所は城壁の中と外をつなぐ洞窟の中にあり、散漫になりがちなグループの展示を強い印象のものに変えることに成功していた。この洞窟も、ヴィラ・ボッティーニも普段は公開されていない場所なのだそうである。
他にもヴィデオを使ったインスタレーションの展示、ポートフォリオレビュー、フォトカフェとなづけられた写真談義のセッション、ポラロイドで撮影しながらその場で作品を仕上げていくところを見せるパフォーマンスなど意欲的な取り組みが各所に見られた。

街を囲む城壁は今では緑におおわれた散歩道として街の人々に利用されている。城壁に立ってみると周囲の緑が美しく目に映える。旧市街は石畳に覆われていて、会場となる展示場所から次の展示場所まで歩いてもそう遠くではない。むしろ、旧市街の古い街並みの中のおしゃれなブティックやカフェをのぞいたり、ローマ時代から中世までの建物をしげしげとみつめているうちに時のたつのを忘れてしまうだろう。小さな川も流れていて目をこらせば鱒がいっぱい泳いでいる。
アルルのフォトフェスティバルが、古代ローマ遺跡のアンチックシアターをスライドショー会場にしつらえたりして古い街並みの中での展示をドラマチックに演出しているのと考え方は同じであるが、アルルはひとつの会場から他の会場までが案外遠い。その点このルッカの街のコンパクトなところがとてもうまく生かされている。

参加した写真家達へのアワードの授賞式はオペラ劇場で催され、各作家の作品がスライドショーで上映された。細江英公はイタリアの写真評論家ジュリアーナ・チメーとともに登壇し、スクリーンに映し出された巨大な自作の前でパントマイムのようなパフォーマンスを面白おかしく繰り広げて観客に大受けしていた。アルルでもデュアン・マイケルズがスライドショーに登場したときにムーンウォークまがいのパフォーマンスで観客を沸かせていたが、70歳を超える写真界の巨匠達の意気軒昂さとお茶目ぶりは若い世代にもいい刺激となるだろう。」

LUCCAdigitalPHOTOfest website





和紙でつくられた絵巻を展示する作業は予想以上に大変だったそうだ。


数々の舞踏家とコラボレーションしてきた細江英公氏は作品の質問を受けるとすぐさまダンスとともに解説が始まる。
規模は小さいがすばらしいオペラ劇場での授賞式。
自作のプロジェクションが始まるとスクリーンの間に入ってシルエット姿でダンスをする細江氏。
細江氏の家族はイタリアにもねづいていて甥御さんのご子息は日伊のハーフ。
フォトフェスト総合案内所まえの巨大な垂れ幕の前で。

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