2016年3月31日木曜日

Message In A Bottle: The Art of Slow Living レオン・カータイ写真展

2010年と2012年に開かれた香港フォトフェスティバルのオーガナイザーでもある写真家のレオン・カータイさんの写真展がHong Kong Design InstituteのなかにあるHKDIギャラリーで開催されていた。HKDIは香港のダウンタウンから少し離れたTiu Keng Lengという地下鉄の駅の目の前にある。モダンな建物でファッションデザインからプロダクト、インテリア、デジタルメディアといった多方面のデザインの学校になっているようだ。周辺は校外のニュータウンといった風情で自転車専用のレーンが整備されている静かなエリアになっていた。

レオンさんと妻のレベッカさんは2013年の10月からコンテナ船に乗って太平洋を南アフリカへ35日間にわたって旅をした。その間に彼らは彼らと友人達によるメッセージをビンに詰めてところどころで海に放りこんだ。そのメッセージはどこの誰ともわからない人へ向けたメッセージで届くか届かないのかも不確かなものだった。メッセージには放り投げた場所の位置も刻印された。
世界中がデジタルで瞬時につながる現代の世界に対して気の遠くなるような時間と不確かなコミュニケーションを試みたのだった。
続いてレオンさんは15世紀のコロンブスらの新大陸を発見した旅をなぞるようにコロンビア、エクアドル、ペルー、チリ、アルゼンチン、キューバを陸路で旅を続けていった。

メッセージを入れたビンは幸いにもカナダの海洋生物学者のカーラ・クロスマンさんに8ヶ月後に拾われた。海洋調査に出かけていたある日にカーラさんは海に浮かぶビンをみつけて同僚にふざけて、もしかしたらメッセージがはいったビンなのかもよ、と捕獲してみたそうだ。レオンさんに連絡がはいり、彼らは流されたビンのメッセージによって結びつけられたのだ。

展示は32のビデオスクリーンに映し出された船旅とビンを投げる映像、船の窓ごしに見える移り変わる海の風景、アクリルに挟まれた海のランドスケープが波のようにうねっている展示、友人達のメッセージ、カーラさんをインタビューしたビデオなどで構成されていた。

このインスタレーションにインスピレーションを与えたのはガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』ということ

















HK Photobook Fair 2016

昨年にひきつづき今年もHK Photobook Fairが開かれた。2回目ともなるといろいろな問題点も見えてきたように思う。

今年もアートバーゼル香港やアートセントラルといった大きなアートフェアが行われる週間にHK Photobook Fairも開かれた。アートフェア同士はお互いの出展者同士での競合も生まれるわけだが、マーケットが国際的になればなるほど同じ時期に開催した方がそれぞれにとって利益になるはずだ。世界のコレクターにしてみれば、同じ時期に複数のフェアやイベント、展覧会があれば一回の渡航でさまざまなアートを見る事ができるし、比較もできる。そして普段は世界中を飛び回っているギャラリストなど関係者にも直接会って情報交換をしたり交渉もできるので極めて便利なはずだ。
今回はアートバーゼル香港にレオナルド・ディカプリオが現れたということだ。セレブリティであればわかりやすいけれども一般の人にはわかりずらい世界的なコレクターもやってきたに違いない。
香港の人はイベント好きで有名だという。アートフェアのようなイベントもディズニーランドにいくような気分で出かける人も多いらしい。アートバーゼル香港のチケットもソールドアウト続出でチケットを買うのに何時間待ちという噂も絶えなかった。

アートバーゼル香港は昨年同様にやや保守的な傾向が見られた。やはりブース代が高いせいだと思われるが、アンディー・ウォーホールやダミアン・ハーストといった高額な著名アーティストが多かったように思う。それに比べるとアートセントラルは実験的な作品も多く、アートにおけるあらゆる手法が試みられていてとても面白かった。
意外だったのは昨年多く出展されていた写真作品が殆ど無くなっていた点だ。ということは昨年香港では写真はあまり売れなかったか、単価が低いために敬遠されたのかもしれない。
今年は香港バブルもはじけていて、景気の後押しはなく売り上げがどのくらいなのかはまださだかではないがこのサイトを見ると昨年よりは低調なかんじがうかがえる。
Live Sales Report: Art Basel In Hong Kong 2016

http://hk.blouinartinfo.com/news/story/1361277/live-sales-report-art-basel-in-hong-kong-2016-final

さてHK Photobook Fairだが昨年は最初の年ということもあり、客足が少ないのは致し方ないのかな、と思えたのだが、今年も最初の平日の2日間の入場者はとても少なかった。なんだか出展ブース同士の交流会なのかな、と思うほどお互いの出展物を見る時間のほうが多かったようだしお客さんと会話するよりも出展者どうしで会話する方が多かったように思う。ブースにいても思わずあくびがでるほどであった。出展者はそれ相応の渡航費と滞在費および出展料を支払ってやってきているのでかんじんのお客さんが来てくれないのはほんとうに困りものだ。自分のブースが売れるか売れないかは出展者の責任だとしてもかんじんのお客さんがきてくれないことには判断材料すらないことになってしまう。


少ない情報をたよりに来てくれたお客さんに聞いたところでも、だいたいクチコミで知ったとか、極端な方ではブラジル在住のお友達から聞いて知ったという方もいたのが驚きだった。物見高い香港のお客さんがこれほど少ないというのは明らかにパブリシティのやり方に問題があると考えていいだろう。

オーガナイザーがこのフェアを将来どのくらいの規模にしたいと考えているのか、というヴィジョンもまだ見えない。隣のブースの方が中国本土からの出展者だったのでフォト上海に出版ブースがあるのかな、と質問したのだけれどフォト上海の出版ブースは殆ど無い、という話だった。それと中国本土では出版物への検閲もあるので上海での出版ブースはあまり期待できない、という話であった。

2010年と2012年に行われた香港フォトフェスティバルでも森山大道の写真展が大盛況であったという話だし、香港の人の写真に対する関心もどんどん高まっていると思う。開催中には後藤繁雄さんや、小山登美夫さんもきてくれて関係者の感心の高さもうかがえた。
この先香港がアジアのアートフェアの中心地となっていく可能性は高いと思えるし、今後香港で写真関連のフェアを開催するのは将来的にもとても有意義なはずだ。ぜひとも大きなフェアに成長させてほしいと願っている。